「いずれ賃貸住宅として貸しだすことを前提に、依頼があったという「おもちゃの街の家」。コンクリートを積み上げ、左右対称を特徴とするこの外観には、均整のとれた美しさがある。そのデザインは、当時の流行でもあり施主の希望でもあったという。
「設計のご依頼をいただいたのは独立当初の頃。いずれは賃貸にしたいといった希望をどのようにするか考えた末、二世帯住宅のようなデザインとしました。
スタイリッシュな空間でよく見かける打ちっぱなしコンクリートのつくりは、施主様のたっての希望。外も中も打ちっぱなしにしたり、おうちの中から望む中庭を作ったり、他の家と違った独特な住宅に仕上げることができました。また、建物の快適さとデザインについて、改めて考えさせられた作品です」と話すDIP佐山さん。
「いずれは賃貸に」。 そんな施主様の希望を踏まえつつ住宅としての機能性はさることながら、まだ見ぬ借り主が思わず借りたくなるデザインを最優先した設計を心がけたという。
シンボルツリーを軸にシンメトリーとなっている外観、コンクリートならではのグレイッシュなトーン。外観から望めるスタイリッシュな印象は、まるでドラマの登場人物が住んでいるかのような空間だ。
駐車場を抜けると両サイドにシンメトリーな玄関ドアが2つ。それぞれのスペースは平等かつ、同じレイアウトになっており、玄関ドアを開けると1階に水まわり、2階にリビングスペースが配置されている。コンパクトな間取りながら一人暮らしやカップルが住むには十分な仕様で、通常のマンションでは得られない、都会的なオシャレな雰囲気を味わえそうだ。
コンクリート特有の無骨さや飾らない素材感など、見た目の良さにばかり注目しがちなコンクリート打ちっぱなしの住宅。しかしながら、どんな建築素材にも言えるように、そこにはメリットとデメリットが存在する。
コンクリートは、外の冷気や熱気を吸収し、蓄積する性質を持っているため、夏は暑く、冬は寒い環境になりがちである。これから建てようと思っている方はそのあたりの対策を忘れてはならない。また、吸水性の低さによる結露やカビ、水アカによる汚れの対策なども同様であり、メンテナンスや費用について理解しておく必要があるだろう。
この住宅に関していうならば、コンクリート打ちっ放しに加え、栃木の名産・大谷石を絶妙にマッチさせている点に、DIP佐山さんのこだわりともいうべきもうひと工夫がある。
「コンクリートと大谷石。それぞれの素材同士の相性が良さそうだなと思って採用してみました。建築家として、スタイリッシュな空間のあり方を求める一方で、素材の調子を整え柔らかい雰囲気をミックスすることで生活に馴染む空間を生み出すことを意図しています。
また、コンクリートはどうしても重い印象を与えてしまうので、大谷石の工夫の他に、屋根を斜めに切ってシャープさを演出しています」と、DIP佐山さん。
そしてもう一点。 住まいの顔であるファサードは、フレームをあえて作り張り出す形で設置した。
道路面に対して力強く大きな窓を仕立てることで、建物が堂々と見えるファサードを表現。それでいて、大きな開口からの日差しが期待でき、実際以上にのびのびとした開放感が感じられる。
そのあしらいは建物の個性そのもの。日常の中で非日常を謳歌する、DIP佐山さんなりのポストモダニズムのカタチを表現したものになっている。
スタイリッシュさを突き詰め、ロジック的な美しさで個性を表現する住まい。そんなシンメトリーな空間には均整のとれた美しさがあり、「コンクリート打ちっ放しの建物はひと時代前のモノ」というイメージを覆すに違いない。
いつの時代であっても建築の本質は、機能的であること、そして遊び心。これらがうまく結びついているからこそ、 何年経っても色褪せない住宅となるのではないだろうか。
おもちゃの街の家
栃木県壬生町
ご夫婦
15年
60.3坪 2LLDDKK
RC2階建て
ドライブ・食べ歩き