DIP

那須塩原の家

取材作品

初心の気持ちを忘れずに。今につながる、DIPの原点

本邸は、建主が母親のための生活拠点として建てた住宅である。計画されたのは2000年ごろ。奇しくもそれが、栃木県宇都宮市に居を構えたDIP建築都市設計事務所の記念すべき一棟目となったのだ。  

計画地は皇室ゆかりの避暑地として名高く、近年では東京都心部へのアクセスもよく、特に首都圏からの移住先として人気を集めている那須塩原。本邸の周囲もまた自然が多く残り、住みやすい環境が広がる。

施主のTさん自身、スイーツ製造の会社を経営し建築と内装デザインにも造詣は深い。だが、店舗と住宅の手法は大きく異なると理解。そこで独立前に縁があったことから、設計事務所を開設したばかりのDIP佐山さんに設計を全面的に委ねることとなった。  

Tさんが理想とするのは、家全体が温かみにあふれた安全性能の高い住まい。そこでDIP佐山さんは、コンクリートの壁式構造に木造屋根を組み合わせ、モダンな雰囲気の平屋を設計した。

「力強さ」のある鉄筋コンクリートと、木の「温もり」、一見相反する2つの要素をいいとこ取りしたハイブリッドな住宅である。

「当時は会社を立ち上げたばかりでバイタリティに溢れていたんでしょうね。独立したての建築家は自邸をアートワークとして事例にすることが多いんです。私も例外ではなく、この住宅を代表作にするぞ!という意気込みで自分自身の持てる力を発揮した作品です。

外壁のコンクリートにタイルを貼ったり、御母様のため北海道の住宅にある防風壁を作ったり……。寒い地域に対応するアイデアがいっぱいありますね」と振り返るDIP佐山さん。

例えば庭に面した東側のデッキ。これはリビングやダイニングキッチンを囲むように配置されているのだが、素材には赤身のスギを採用。左右に広く取られたデッキからの眺めは、風が通り、室内にいながら自然を享受できる贅沢な空間を生み出している。

また、外からの視線に対しては、柘植(ツゲ)の植樹でプライバシーを確保。拓殖は主に西日本の暖かい地域に分布する日本の固有変種であり、那須塩原には根付かないといわれたが、暖かいところから輸送してきたという力の入れようだ。

リビングの天井には木毛セメント板という当時ニューヨークの建築業界でトレンドだったものを積極的に採用している。

これは木毛と呼ばれる木の破片を集めてセメント板にて圧縮して成形したもので、モルタルに似た独特な風合いが味わい深い表情を生む。ここでは濃い目の梁と組み合わせることで、ラフながら高級感のある空間に仕上げた。

設計に関して全面的に任されたものの、建築設計の思想やコンセプトの考え方の面で、建主Tさんにはだいぶ勉強させていただいたと振り返るDIP佐山さん。

「リビングができたときに、どうしてこの窓にしたの? 何か意図はあるの?」と聞かれたことがあって、その時に「住宅を設計する際はその人の物語をじっくり深掘りしないといけないな」と改めて考えさせられました。

「若気の至りといいますか、当時の私は予算内でまとめることよりも、おもしろい発想とデザインを優先させたりと、住む人たちのことを深い部分まで考えきれていなかったような気がします」。

つまり大企業への提案と個性ある住み手へのプランつくりには求められる能力も内容も大きく異なるもの。元々は大手ゼネコンで腕を振るっていただけに、抑えるべきポイントが違っていたのだろう。

「この家は、建築家が家を建てる際は常に住む人や地域社会の側に立つへ゛き。そんな初心を改めて思い起こさせる恩人のような住宅です」。

とはいえ、環境を最大限に活かしながら、住み手にとって居心地の良い空間を追求したことに異論はない。

そのひとつひとつに、DIP佐山さんはじめ、建築に関わった職人の痕跡が残るT邸。それはTさんの想いを受け止め、都会では味わえないひとときを楽しむ住まいとなっている。

  • 作品名

    那須塩原の家

  • 所在地

    栃木県那須塩原市

  • 家族構成

    非公開

  • 居住年数

    20年

  • 延床面積・間取り

    47坪

  • 居住タイプ・構造

    鉄筋コンクリート+屋根のみ木造

  • 価格

  • ご趣味

    旅行・読書