セントラルヒーティングは省エネ?機能や使い方を徹底解説

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「セントラルヒーティング」という言葉をご存じでしょうか?「セントラルヒーティング」とは中央制御型の暖房システムの名称で、日本では北海道などの寒冷地で広く普及しています。真冬でも室内の気温差がほとんど無く、非常に快適に過ごせるうえ、上手に取り入れれば省エネメリットもある「セントラルヒーティング」について解説していきます。

セントラルヒーティングのしくみ

 中央制御型暖房システム

「セントラルヒーティング」は1箇所にあるボイラーで熱をつくり出し、その熱を建物の各所に配置された「ラジエーター(パネルヒーター)」へ配管内の不凍液(凍結防止剤・錆防止剤を添加した水)を介して送ることにより室内を暖める、中央制御型の暖房システムです。エアコンやストーブ、ファンヒーター等はそれぞれの機器が独立して動くため、個別制御型の暖房と言えます。

個別制御型の暖房は人間が居る部屋のみを暖める考え方なのに対して、「セントラルヒーティング」は基本的に全館暖房を想定しています。建物全体が均一に暖まるため、部屋間の移動でもストレスを感じない非常に快適な暖房システムです。なお、ボイラーの熱源としてはガス(都市ガス・プロパンガス)や灯油の燃焼によるものが代表的ですが、最近はエコキュート同様の高効率電気ヒートポンプ式ボイラーも採用が可能で、オール電化住宅にも対応が可能です。

輻射熱で暖める

 エアコンやファンヒーターが温風で室内の空気を暖めるのと違い、「セントラルヒーティング」は室内各所へ設置された「ラジエーター(パネルヒーター)」に熱された不凍液を循環させ接する空気の対流で室内空気を暖めます。さらに輻射熱(ふくしゃねつ)により遠赤外線を放出し部屋の壁や床、人間の身体を直接暖めるため、非常に体感温度が高くなります。遠赤外線ストーブや薪ストーブの身体の芯から暖まる効果を兼ね備えていると言えます。

北海道の新築戸建の7割が導入

 日本における寒冷地の代表格である北海道では、新築住宅のおよそ7割が「セントラルヒーティング」だと言われています。真冬で外は極寒でも「セントラルヒーティング」で全館暖房を行い、室内ではTシャツ1枚で過ごす…というケースさえあります。それだけ暖房効果があり、とても快適なシステムだと言えます。

海外での導入事例

 「セントラルヒーティング」は、もともとヨーロッパおよび北米で普及し、一般的に採用されている暖房システムです。(ヨーロッパの多くの国は北海道より緯度が高く寒冷な気候です。アメリカのニューヨークも青森県あたりの緯度にあります。)各住戸内ではなく、地域に大型の暖房用ボイラーを設置し、各家庭に配管で熱を供給する地域熱供給(地域暖房)システムの導入事例も多く見られます。

セントラルヒーティングを導入するメリット・デメリット

温度差が生まれにくい

 「セントラルヒーティング」を導入する最大のメリットは、住宅内・室内の温度差があまり発生せず、均質な気温となることです。人間が普段居る部屋のみを暖房するという考え方の個別制御型暖房ですと、住宅内を移動するときに廊下や水回り(トイレ・脱衣室等)の暖房していない箇所で寒暖差が生じ快適性が損なわれるだけでなく、特に高齢者には「ヒートショック(※1)」による健康被害を及ぼす可能性もあります。「セントラルヒーティング」は全館暖房が基本であり、そのリスクを軽減することができます。

※1 「ヒートショック」…短時間での気温の大きな変化によって血圧が急激に上昇したり下降したりして心筋梗塞や脳卒中等の心臓や血管の疾患が起こること。

一説によると年間の交通事故死亡者数より多い。

空気が乾燥しにくい

 温風を発生させるエアコンやファンヒーターは空気が乾燥しがちで、高気密化が進んでいる現代の住宅では冬場の加湿器が必須となっています。また、直接温風が身体に当たると非常に不快であるため、設置位置にも配慮が必要です。

それに対し「セントラルヒーティング」は先述のようにラジエーター(パネルヒーター)に接した空気の対流と輻射熱で暖めるため、温風による乾燥空気を発生させず、空気を汚しません。非常に快適な室内空気環境を実現できます。

とても静か

 室内には温水をつくり出すボイラーは無く、ラジエーター(パネルヒーター)のみです。エアコンのような温風を送るファンの風切り音やモーターの駆動音、ストーブのような燃焼音がしないため、生まれたばかりの赤ちゃんがいても安心して寝かせられるほど、とても静かな暖房器具です。

安全に使用できる

 「セントラルヒーティング」は温水をつくり出すボイラー以外の熱源がありません。各所のラジエーター(パネルヒーター)は最大70℃程度の温水が循環しているだけで、火災の発生や不完全燃焼による一酸化炭素中毒などの危険が少なく、とても安全な設備です。ガスや灯油を使用しない電気ヒートポンプ式のボイラーもあり燃料の燃焼が無いため、より安心です。 また、室内に石油やガスのストーブやファンヒーターがあると、誤って触ったり倒したりする事故の危険があります。特に高齢者や小さなお子様、ペットがいるご家庭では「セントラルヒーティング」の導入をお勧めします。

メンテナンスが簡単で耐久性が高い

 

 室内各所の温度設定は、ラジエーター(パネルヒーター)に流れる温水の量で調整します。温度調整バルブを個別に開放したり締めたりするアナログな操作で、非常にシンプルな設備です。温水をつくり出すボイラーも給湯器に類した設備で、特別なものではありません。複雑な制御のシステムでは無いため、メンテナンスが簡単で耐久性が高いと言えます。ただし、温水として使用される「不凍液」は徐々に目減りしていきますので、定期的な継ぎ足しあるいは入替えが必要です。目減りした分を自動給水してくれるボイラーもありますが、不凍液の濃度が徐々に薄まり、配管内部での錆の発生や真冬の凍結トラブルを起こす可能性がありますので、3年に1度程度の不凍液入替えが推奨されています。

地震に強い構造

 地震により建物へ掛かる力は、横方向揺れによる「水平力」です。その水平力に耐えるために「耐力壁」を設け、柱や梁の接合部が横揺れの力で外れて崩壊しないように「接合金物」で補強するのが一般的な住宅の耐震設計の考え方です。(鉄骨造や鉄筋コンクリート造の場合は柱と梁のみによるフレームのみで検討することも可能)

 「耐力壁」はむやみやたらに増やせば良いものではなく、一部に偏っているとねじれの力が発生し、構造に悪影響を及ぼします。この偏り方を一定の数値以下に抑えるバランスを測るのが「偏心率」の考え方で、建築基準法では「0.15以下」と基準が定められていますので性能評価書等でチェックするようにしましょう。

 地震による「水平力」をしっかりと耐力壁に伝えるためには、「床剛性」が必要です。これは、2階以上の床の変形のしにくさを表す基準で、吹き抜けが多い建物はこの「床剛性」が取りにくくなります。その分の補強や対策が取られているかの確認も必要になってきます。

インテリアのデザイン性を損なわない

 ラジエーター(パネルヒーター)はシンプルで意匠性の良いデザインのものが各メーカーから多種多様に用意されており、お部屋のインテリアのデザイン性を損ないません。システム的にも非常にシンプルですので、室内のラジエーター(パネルヒーター)は意匠性優先で選んでも性能差はあまりありません。

初期費用が掛かる

 「セントラルヒーティング」のデメリットとしては、全館暖房が基本となるため、それなりの設備機器と配管工事の初期費用が掛かることです。ただ、住宅は購入してから長期にわたって住み続けるものです。生活の質の面で非常に重要な「冬場の快適性」が格段に向上しますので、寒冷地では積極的に導入を検討すべき設備です。

ランニングコストが掛かる

 常時全館暖房をしてこそ威力を発揮する暖房システムですので、人が不在の部屋まで暖めてしまい、その分の暖房エネルギーを余計に使ってしまう可能性があります。建物の規模と家族の構成や人数、各人の生活時間によりランニングコストが大きく変わります。慎重に試算してから導入を検討するのが良いでしょう。

暖まるまで時間が掛かる

 「セントラルヒーティング」は温風などで強制的に部屋を暖める暖房器具ではなく、空気の対流と輻射熱でゆっくりジワジワ部屋を暖める設備です。一度切ってしまうと暖まるまでに時間が掛かるというデメリットがあります。特に真冬は常時つけっぱなしの運用を基本としましょう。

リノベーションに対応しづらい

 間取りの変更を伴う改装(リノベーション)の際には、温水配管の大規模なやりかえ工事が発生し、コストが大きく掛かってしまうことも難点です。

セントラルヒーティングの賢い使い方

基本は1日中つけっぱなし

「セントラルヒーティング」は常時全館暖房が基本です。建物の内装や躯体まで含めてじっくりと暖める暖房ですので、一度暖房を切ると再び暖まるまでに時間と余計な暖房エネルギーが掛かるため、特に真冬に暖房を完全に消すことはお勧めできません。タイマー制御が可能な商品もあり、生活サイクルに合わせて時間帯ごとのボイラーの設定温度やラジエーター(パネルヒーター)流量を適切に切り替える等の工夫で省エネ運用が可能です。

窓際に設置する

 冬場において、住宅の熱損失(室内の熱が外部に逃げること)は窓からが6割を占めると言われています。さらに、熱された空気が窓面に接して冷やされ、足元に流れ込む「コールドドラフト」現象は、体感温度を下げて室内の快適性を大きく損ねます。対策として窓際にラジエーター(パネルヒーター)を設置すると、熱損失の低減とコールドドラフトを防ぐことができます。また、室内物干し場や、ダイニングキッチン等の水蒸気発生源がある部屋の窓においては結露を防ぐ効果もあります。

設定温度は低めに

 「セントラルヒーティング」では設定温度を必要以上に上げないことが鉄則です。常時ONにすることが前提の暖房システムですので、住宅内の温度差があまり無く、個人差はありますが20℃程度の設定温度でも十分快適に過ごせるケースも多いです。ボイラーに関しても、室内気温と比較してあまりにも高温に設定すると、効率よく室内の熱に変換できずに余計なエネルギーを使用してしまいます。使い始めの秋口は40℃程度のボイラー温度設定から始め、室内の暖まり方の様子を見ながら、真冬に掛けて60℃から70℃程度まで徐々に上げていくのが上手な使い方と言えます。

夏場はボイラーOFFでサーモバルブは最大に

 シーズンオフには暖房専用のボイラーは一切使用しませんので、待機電力をカットし誤作動を防ぐために電源を必ずOFFにしましょう。ここで注意したいのが、室内のラジエーター(パネルヒーター)にある温度調節バルブ(サーモバルブ)の位置で、暖房をしない時期はバルブを全開放状態にしておきましょう。なぜなら、サーモバルブは電気制御では無く、気温を感知して常に流量弁を開閉するからです。絞った状態にしたままですと、常時流量弁の開閉を繰り返し部品に負荷が掛かるため、劣化を早めてしまいます。夏場に絞ったまま放置して、いざ冬場に使おうとしたら流量弁が壊れていて温度調節が効かない…といったケースも聞かれますので注意です。

ライフスタイルに合わせた設備で快適な住まいを

 ここまで「セントラルヒーティング」について様々な角度から解説してきました。厳寒地でも全館暖房で快適に過ごせる素晴らしいシステムで、上手に使えば省エネルギーにもつながります。特に大家族で、常時誰かしら家に人が居るご家庭では常時全館暖房のメリットをフルに活用できます。寒冷地での住宅購入を検討の際には、暖房システムとして「セントラルヒーティング」をぜひご検討ください。

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