高気密・高断熱の家は住みやすい?後悔しないための3つのポイント

暮らし方

建物には、夏の日射による厳しい暑さや冬の寒波による寒さから人間を守る「シェルター」としての役割があります。屋外の気温変化の影響を出来るだけ受けず、一年を通して快適な建物とするために重要な性能が「気密性能」「断熱性能」です。今回は、高気密・高断熱の住宅をつくるポイントについて解説していきます。

高気密・高断熱の家ってどんな家?

高気密住

「高気密住宅」とは、建物が外気に接する面の隙間を極限まで小さくした住宅のことを言います。建物は現地で様々なパーツを組み合わせることによりつくられます。パーツとパーツの接合部がピッタリくっつき、隙間が無い状態が理想ですが、設計仕様上の問題、製品のゆがみや職人の施工技術の問題、あるいは経年変化によるパーツの動きなどにより、多少の隙間が発生する事があります。隙間があると建物内部の熱が逃げてしまい、特に冬場においては暖房の効果を十分に発揮できなくなってしまいます。

現場での作業を極限まで減らし、工場で厳密な生産品質管理を行うプレハブ住宅や、現地で型枠内に液状のコンクリートを流し固める鉄筋コンクリート造の住宅はナチュラルに高気密化が可能ですが、一般の在来木造住宅でも防湿フィルムを貼るなどの仕様上の工夫や高い施工技術により、同等以上の高気密化を実現している施工会社も多数存在します。

 高断熱住宅

「高断熱住宅」とは、建物の屋根や外壁の断熱性能を高め、夏は外部から熱が伝わりにくく、冬は室内の暖房熱が外部に逃げにくい住宅を指します。日本においては、古来より夏の暑さをしのぐことに住宅の重点が置かれていたため、風通しを良くするために開口部が多く設けられるなど、あまり重視されてこなかった経緯がありますが、現代においては設計手法のレベル向上や断熱材・建築部材の性能アップにより、多種多様の断熱工法が開発されています。

家全体が密閉・保温されるため光熱費が抑えられる

 高気密・高断熱の住宅は、家全体が密閉・保温されるために冷房・暖房のエネルギーロスが少なくなり、結果として光熱費が抑えられます。性能仕様アップの初期費用が掛かりますが、ランニングコストの削減により長期的にはお得になる可能性もあります。

また、近年は政府も省エネルギーの観点から高気密・高断熱住宅を推奨し、補助金や各種の税制優遇を用意していますので、積極的に活用するようにしましょう。

高気密・高断熱の家の基準と数値

建物の気密性能・断熱性能を評価する尺度には様々なものがありますが、その中でも代表的なものについて解説します。

相当隙間面積(C値)

床面積1㎡あたりの建物全体の隙間面積を表す数値で、単位はcm2/m2となります。完成した住宅において気密測定器を用いて実地測定することにより算出されます。例えば、C値2.0の場合は床面積1㎡あたり2平方センチメートルの隙間があるということになります。30坪(約100㎡)の家であれば、建物全体で200平方センチメートルとなり、一辺が14cmの正方形の隙間に相当します。これはハガキ1枚よりもひと回り大きいサイズです。そう考えると感覚的には大きいように思いますが、約20年前の基準では寒冷地においてもC値2.0を下回れば高気密の省エネ住宅の認定を受けられました。(現在は法改正により基準自体が削除)
現在は施工技術や部材性能の向上によりC値0.2以下の性能をうたうハウスメーカーや工務店も存在しますが、少なくともC値1.0を下回っているかをひとつの基準とするのがよいでしょう。

熱損失係数(Q値)

 床面積1㎡あたりの家全体から逃げる熱量(換気による熱損失を考慮)のことを言います。以前は断熱性能を表すのにQ値が使われていましたが、2013年に改正された省エネ基準からはUA値が使われるようになり、今ではQ値よりもUA値を使っているハウスメーカーが多くなっています。

外皮平均熱貫流率(UA値:ユーエー値)

室内の熱が外にどれだけ逃げてしまうかを表す数値で、建物表面積(外気に接する部分すべて)1㎡あたりの家全体から逃げる熱量(換気による熱損失を考慮しない)のことを言います。

前述のQ値も同様の熱損失を評価する基準ですが、建物の延べ床面積が大きいほど数値が小さくなり住宅性能が過剰に高く評価されてしまいます。UA値は壁や天井、窓などの開口部を全て含んでいるので、Q値より公正な評価が期待できます。

UA値が低いほど住宅の熱損失が少ない(≒気密断熱性能が良い)ことになります。地域にもよりますが高気密・高断熱住宅としての目安は、少なくとも0.6以下、できれば0.46以下です。ハウスメーカーや工務店に数値を確認するようにしましょう。

平均日射熱取得率(ηAC値:イータエーシー値)

太陽の熱がどれだけ室内に伝わるかを表す数値で、単位日射強度あたりの屋根・壁・開口部から侵入する熱量の合計を建物表面積で割ることにより算出します。主に夏の冷房時期の空調負荷を算定するときに用い、この数値が低いほど真夏の日射の影響を受けにくく、冷房が効きやすい住宅であると言えます。

トップランナー基準

「エネルギー使用の合理化等に関する法律」に基づき、住宅の大手建設業者には省エネ性能に優れた住宅を供給する目標が課されています。その中で制定された「住宅事業建築主基準」のことを「トップランナー基準」と言い、高気密・高断熱の省エネ住宅のロールモデルとなっています。この「トップランナー基準」に適合した住宅は、各種の税制優遇や住宅ローンの金利優遇を受けられたりするなどのメリットがあります。
参考に、「トップランナー基準」を満たすための「UA値」「ηAC値」は下の図表のとおりです。

トップランナー基準出典:一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)

住宅性能表示制度

 「住宅性能表示制度」を活用した気密断熱性能・省エネ性能の評価もあります。

省エネルギー対策(温熱環境・エネルギー消費量)の項目が該当し、「温熱環境(断熱等性能等級)」は等級1~5、「エネルギー消費量」は等級1~6まであり、等級が大きいほど性能が優れていることになります。

なお、先述の「トップランナー基準」は温熱環境等級5、省エネルギー対策等級5に相当します。

高気密・高断熱の家のメリット・デメリット

光熱費を抑えられる

 高気密・高断熱の家は高い断熱性能により外気温の影響をうけづらく、かつ冷暖房の熱が逃げて行きにくいため非常に省エネになります。電気やガス・灯油の消費エネルギーが抑えられ、家計の光熱費の負担が減ります。

夏は涼しく、冬は暖かい

 日本の気候は四季がはっきりしており、高温多湿の夏と空気が乾燥し積雪もある冬、正反対の気候に対応しなくてはなりません。高気密・高断熱の家は一年を通して室内の温熱環境を安定して快適に保ち、夏は涼しく冬は暖かい暮らしを実現することができます。

ヒートショックの防止

 高気密・高断熱の家は、冬場に住宅内を均質に暖めやすいため、部屋間の温度差が少なく「ヒートショック(※1)」のリスクを軽減する効果もあります。

※1 「ヒートショック」…短時間での気温の大きな変化によって血圧が急激に上昇したり下降したりして心筋梗塞や脳卒中等の心臓や血管の疾患が起こること。

一説によると年間の交通事故死亡者数より多い。

洗濯物が乾きやすい

高気密住宅は外気からの湿気の流入が少なく、適切な換気が行われていれば住宅内は常にやや乾燥した状態を保ちます。結果、室内での洗濯物が乾きやすいという効果も生まれます。特に都市部では屋外干しが難しいケースもありますので、非常に助かります。

遮音性が高い

 高気密・高断熱の家は隙間が少なく、気密断熱性能が高い窓が使用されるため、遮音性能が高まります。外部からの交通騒音や近隣の生活音を遮り、かつ室内からの音漏れを防ぐため、音によるトラブルが発生しにくい傾向があります。

結露が起きにくい

 非常に不快でカビの発生にもつながる壁や窓の結露は、建物内外の温度差により発生します。高気密・高断熱の住宅はその高い断熱性能により、結露の発生を抑えることができます。室内が乾燥傾向になりますので、結露のもととなる水蒸気自体が室内に少ないことも要因です。

暖房器具に制限がかかる(石油ストーブ)

数少ないデメリットとしては、暖房器具に制限が掛かることが挙げられます。石油ストーブやファンヒーターは安価で非常に効果の高い暖房器具ですが、室内での燃焼により水蒸気を発生させ、結露の発生の原因になります。また、気密性の高い室内で燃焼させることによる酸素不足で、不完全燃焼による一酸化炭素中毒のリスクもあることから、使用しないのがベターです。

熱を逃がしにくい分、室温の調整に時間がかかる

 夏場に家をしばらく空けて帰ってきたときには、その高い気密断熱性能により熱がこもります。冷房を使用した室温調整に時間が掛かる傾向があります。

乾燥しやすい

 空気が乾燥しやすいことは結露を抑えて部屋干しがすぐ乾くメリットがありますが、特に冬場はさらに乾燥するため乾燥肌の人には辛く、喉の粘膜が乾き免疫が低下し風邪を引きやすくなるリスクもあります。また、空気が乾燥しているとウィルスも飛散しやすくなってしまうため、湿度が40%以上となるために加湿器により湿度コントロールすることは必須です。

内部結露が起こることがある

 建物の壁内や床下で発生する結露のことを「内部結露」と言います。高気密住宅は室内側を防湿フィルムで気密施工されていることが多く、壁内や床下に閉じ込められた湿気が内部にも外部にも逃げづらいため、内部結露を引き起こす可能性があります。内部結露は外観上は分かりづらく、進行が進むと木材の腐朽や鉄部の錆びによる性能の低下やカビの発生による健康被害を招きます。内部結露を防ぐためには、十分に乾燥した資材を使用し施工時の隙間を極力無くす等、作業者レベルでの施工上の配慮が欠かせません。

高気密・高断熱の家で後悔しない3つのポイント

換気がポイント

高気密・高断熱の家は、密閉度が高いため室内空気がそのままでは入れ替わりません。換気システムにより新鮮な外気を取り入れ室内の汚れた空気を排出するかたちになりますが、熱のロスが少ない熱交換型の換気扇や有害物質を吸着する高性能フィルター等、換気システムの選定にも注意を払いましょう。

窓や玄関も高断熱にする

 特別な断熱の配慮がされていない場合、窓や玄関等の開口部からの熱のロスは建物全体の6割に達するというデータもあります。屋根や壁の断熱性能を上げることは断熱材の選定次第で比較的容易ですが、窓や玄関の断熱は製品性能がそのまま表れます。寒冷地では熱伝導率の高いアルミサッシではなく、樹脂や木製枠の断熱サッシが多く用いられています。ガラスもペアガラスやトリプルガラスなど、各種のランクがありますので必要とする性能を満たすランクのものかを確認しましょう。

施工会社をしっかり選ぶ

 高気密・高断熱の家は数値としての性能で評価されますが、それはあくまで机上の理論値であり、設計図通りに施工できる技術と配慮があって成り立つものです。

現場での断熱材の詰め方、隙間ができないように施工する適正な施工手順、建築業者と設備業者間の意思の疎通など、実際の性能を決める要素は現場にこそあります。ハウスメーカーや工務店など施工会社の選定は、その技術力や施工実績を見極めて慎重に行いましょう。

家の断熱性は施工次第!じっくり検討しましょう

 ここまで、高気密・高断熱の家の特徴やメリットについて解説してきました。住宅の高断熱化・省エネルギー化は日本が欧米諸国に比べて遅れを取っている分野であり、国を挙げて性能向上に取り組んでいます。昨今の電気・ガス料金の高騰もあり、各家庭の家計のためにも非常に重要な課題です。

 また、高気密・高断熱の家は性能仕様だけではなく、現場での施工次第で実際の性能が大きく変わってきます。高気密・高断熱の家を検討する際には、施工会社の品質や実績を見極め、じっくりと検討しましょう。

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